明前茶が生まれる瞬間〜景徳鎮に息づく中国茶文化と、谷家さんの特別なお茶摘み体験〜

中国・景徳鎮近郊の瑶里古鎮と东埠村という二つの村を訪れたWELLBEING TOKYO代表の谷家さん。現地の農家に滞在し、自ら摘んだ明前の野生高山緑茶を翌朝その地でいただくという、この上ない贅沢な体験をされた谷家さんにお話を伺いました。
清明節を迎える前の特別な季節に、限られたご縁のもとで触れたその時間は、山の静けさや朝の澄んだ空気、そして人々の営みの美しさを、ひとつひとつ丁寧に映し出してくれるものだったそうです。
「明前茶」という特別な時間に寄り添う中国茶

春の気配が大地に満ちる頃、中国では清明節を迎えます。2026年は4月5日でした。清明節より前に摘まれる「明前茶」は、中国茶の中でもとりわけ珍重される存在です。緑茶の明前茶は独特の清々しい香りがあるとされ、晩春になるとその香りが魔法のように消えてしまいます。その一瞬を逃さぬよう、人は自然のリズムに身を委ねながら、茶と向き合ってきました。
今回、谷家さんは景徳鎮の磁器の取引先の方々から明前茶の収穫を是非体験してほしいと、景徳鎮近郊、古くから茶づくりが続く浮梁の瑶里古鎮を訪れました。浮梁一帯の茶の歴史は漢代にまで遡るとされ、唐代にはすでに重要な茶産地として知られていました。ちょうど清明節の1週間前の3月末、一般には外部の受け入れが限られていて、一年で一番忙しい繁忙期、江西省の農家に滞在し、特別なご縁のもとで茶摘みを体験されたそうです。
景徳鎮近郊での、貴重なお茶摘み体験

農家の方たちは通常は夜明け前から標高1300メートルの高山へ3時間かけて登り、5時間にわたって茶を摘み、さらに3時間をかけて下山するという過酷な行程のなかで、1日に得られる茶葉はわずか5キロほどに過ぎないということでした。谷家さんは今回、徒歩30分ほどの場所へ案内されたそうですが、それでもなお、農家の方たちが何百年も前から自生するという野生の古茶樹から一芽ずつ手で摘み取るという作業には、時間の重なりそのもののような尊さが感じられます。芽を傷付けないよう慎重におこなった茶摘みですが、慣れない作業で半日やっても3回分ほどの茶芽しか採れないほど手間がかかる作業。1杯のお茶のありがたさが身に沁みます。
また、そこで使われている道具もすべて手作りのものなのだそう。これは今は隠居されている60代のお父さん。10代のころからずっと手作りでつくっていた竹で編まれたザルやかご。美しい細かい模様は実は緑茶の製造工程である揉捻(じゅうねん)という揉みこむ作業がしやすいように出来ています。夜にわずか2~3日で作ってしまうという熟練の手技です。長年使い込まれた手仕事の痕跡を宿し、自然とともにある暮らしを静かに物語っています。
景徳鎮と茶文化〜土と水が育む歴史〜

景徳鎮といえば陶磁器の都として広く知られていますが、実は古くから茶文化とも深く結びついてきた土地です。近隣には川が流れ、かつては水運によって陶磁器や茶が世界へと運ばれていきました。
写真は景徳鎮から1.5時間ほど行った东埠村。东埠村の近くにある高岭山は、磁器の重要な原料であるカオリン(高岭土)の産地として知られています。东埠は、その高岭土を景徳鎮へ運ぶための重要な集散地・古碼頭として栄えました。明・清に栄えた古い商店のカウンターは高く作られており、騎馬や轎に乗った客が降りずに商品を買えるようになっていて、高岭土をはじめとする物資が行き交った商店街の往時の記憶が今も静かに息づいています。
河川交通の役割が陸上交通に代わっていった中で、今は観光地として多くの人が訪れる东埠村。陶磁器と茶が隣り合うこの土地ならではの文化的な厚みは、現代においてもなお特別な意味を持ち続けています。
中国茶の歴史と、皇帝文化の成熟

中国茶の歴史を辿ると「神農が茶を薬として発見した」という伝説があるほどで、古くは薬用・食用としていた時代に遡ります。やがて飲用として人々の生活へと広がり、文化として成熟していきました。
とりわけ清代の康熙・雍正・乾隆期には、宮廷文化の成熟とともに茶器の世界も高度に発達しました。乾隆期の景徳鎮では、卓越した技術と皇帝の美意識を反映した多彩な磁器が生み出されています。
景徳鎮の文化もまたその流れの中で発展し、器を中心に日本へと渡り、「唐物」として人々の憧れを集めてきました。しかし工業化や様々な歴史的背景の中、景徳鎮のものづくりのあり方も大きく変化していきました。それでもなお、山で茶を摘み、茶をつくる営みは、形を変えながら静かに受け継がれてきています。
変わらない暮らしが映し出す、中国茶の本質

谷家さんが深く心を動かされたのは、まさにその「変わらなさ」にありました。谷家さんが滞在した山間の農家では、身近なものを自ら育て、必要に応じて近隣同士で物を融通し合う、いわば自給自足に近い暮らしが今も残っていたそうです。谷家さんには、「オーガニック」という言葉すら必要ないほど、人々の暮らしと自然が一体になっているように感じられたといいます。
山の中で、小鳥のさえずりのように、土地固有の方言でを明るいおしゃべり交わしながら茶を摘む女性たちは、なにかとても尊とく、凛とした強さを湛えていたといいます。摘み取られた茶葉は、その日のうちに高温で炒られ、乾燥され、一つの完成へと至りました。長い時間をかけて育まれながら、仕上げはわずか1日。明前茶は時間との勝負です。夜になると熱い釜に新芽をいれ素手でかき混ぜ炒っていきます(ものすごく熱い!)。作業はほぼ手作業で、その凝縮された時間こそが茶の価値を一層高めています。一晩乾燥させていただいた緑茶の美味しかったこと!
こうして生まれた茶の多くはすでに買い手が決まっていて、希少な存在として扱われます。農家の人たちは自分たちではそのお茶を飲まないほどです。その背景には、目に見えない時間と手仕事の積み重ねがあります。
日本へ伝えたい、中国茶の世界観

この体験を通して谷家さんが強く感じられたのは、中国茶の奥深さと、その背景にある豊かな世界観でした。器と茶、土地と歴史、そして人の営み。それらが分かちがたく結びついているからこそ、中国茶は単なる嗜好品ではなく、一つの文化として連綿と続いてきたのです。
そして、まだ日本では十分に知られていないその豊かさを、自らの手で丁寧に伝えていきたいと思われたのだそう。遠い山で摘まれた一枚の茶葉の記憶を、私たちの日常へと繋いでいくこと。それこそが、これからの活動の核になっていくのかもしれません。
中国茶会のご案内 〜LINE登録・Instagramで最新情報をチェック〜

そうした想いの延長として、WELLBEING TOKYOでは不定期に中国茶会を開催しています。4月の特別な中国茶会では谷家さんが摘んできた新茶も皆様にお出しされたとのことです!中国の知人からこれは市場には出ないお茶だからといただいた貴重なお茶なども出しているそうで、なかなか日本では手に入らないお茶を味わえるのも魅力です。
中国茶会のご案内や最新の開催情報は、LINEにてご案内しております。季節ごとのお茶や特別な会のご案内もお届けしていますので、ご興味のある方はQRコードからぜひご登録ください。
また、日々の設えやお茶のひととき、器の美しさなどはInstagramでもご紹介しています。空間の余韻や細やかな美意識を感じていただけましたら幸いです。
WELLBEING TOKYO 六本木ショールームのご案内

景徳鎮の蓋碗や茶器、その他の作品も六本木のショールーム
(完全予約制)で実際にご覧いただけます。
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【時間】11:00~17:00 完全予約制
【場所】東京都港区六本木
▼各日定員制
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ライター:Mayo Ishii
テーブルコーディネートディプロマ取得。アフリカ、ヨーロッパ、東南アジア、インドに滞在。世界中の手工芸品や文化をテーブルに取り入れることが好き。