[第3回] 粉彩扒花が導く、香りを聞く茶の時間〜聞香杯という特別な器〜

本コラムは、景徳鎮に受け継がれる伝統装飾技法「粉彩扒花(ふんさい・はっか)」の器について、全3回にわたってご紹介してきたシリーズ編です。
シリーズの最終回である今回は、粉彩扒花の技法によって生み出された「聞香杯(もんこうはい)」について。聞香杯は、飲むための器であると同時に、香りを“聞く”ために生まれた、きわめて特別な茶器なんです。
聞香杯とは ―基本的な使い方と香りと向き合う所作

聞香杯は通常、お茶を飲むための「茶杯」と対になって用いられます。 この二つの杯を使うことで、お茶は単に喉を潤すものから、「香りを含めて味わうもの」へと変わっていきます。
基本的な使い方は、次のような流れです。
1、丁寧に淹れたお茶を聞香杯に注ぎます。
2、その聞香杯の上に茶杯をかぶせるように重ね、素早くひっくり返します。お茶は茶杯へと移り、聞香杯は空になります。
3、空になった聞香杯の底に残る香りを、鼻に近づけてゆっくりと「聞きます」。ここで立ち上がるのは、湯気とともに閉じ込められていた、お茶の最も繊細な香りです。
4、香りを十分に楽しんだ後、茶杯に移されたお茶を口に含み、味わいます。
なぜ香りが際立つのか ―聞香杯の形が生む効果

聞香杯を使う最大の意味は、‟お茶の香りを最大限に引き出し五感で味わう”ことにあります。
一般的な茶杯は口が広く、香りは湯気とともにすぐ空気中へと拡散してしまいます。一方、細長く口径の小さい聞香杯は、香りを内部に留めやすい形状をしています。
お茶を移した後の空の杯に残る「残香(ざんこう)」や、温度が下がるにつれて変化していく香り——爽やかさから甘みへ、青さから花の蜜のような香りへ——そうした移ろいを、時間をかけて感じ取ることができます。 一杯のお茶がもつ表情の多さに気づかせてくれるのが、聞香杯なのです。
聞香杯と相性の良いお茶 —烏龍茶の魅力を引き出す

聞香杯は、香りの華やかなお茶、とりわけ烏龍茶(青茶)に用いられることが多い茶器です。
台湾の凍頂烏龍茶や高山茶をはじめとする台湾烏龍茶、中国の青茶は、芳香成分が豊かで、温度変化によって香りが大きく移ろう特徴があります。聞香杯を使うことで、その魅力をより立体的に味わうことができます。
一方、プーアル茶のように熟成由来の香りが主体で、立ち上がりや変化が比較的穏やかなお茶では、聞香杯は必ずしも用いられません。
粉彩扒花で描かれた錦鶯 —張文月氏による聞香杯

WELLBEING TOKYOで扱う聞香杯は、粉彩扒花の名匠・張文月氏による作品です。
外側には、吉祥文様として古くから親しまれてきた「錦鶯(にしきうぐいす)」が描かれています。赤い尾羽と橙色の胸元をもつこの鳥は、夫婦円満や繁栄、富貴を象徴する存在とされ、中国絵画や景徳鎮磁器にもたびたび登場してきました。粉彩による柔らかな彩色の上に、扒花の針彫りが重なることで、鳥や草花の輪郭は光を含み、見る角度によって表情を変えていきます。
五感で味わう茶の時間、聞香杯がもたらす余白

聞香杯の魅力は、視覚だけにとどまりません。手に取ったときの軽さ、指先に伝わる彫りの気配、そして湯を注いだ瞬間に立ち上がる香り。そこには五感すべてで味わう体験があります。
日常の中でふと立ち止まり、呼吸を整えるような時間をもたらしてくれる器。それが聞香杯です。 粉彩扒花という高度な装飾技法と、香りを「聞く」という東アジア独自の茶文化。その二つが重なり合って生まれた聞香杯は、単なる茶器を超え、暮らしの中に静かな余白をもたらす存在と言えるでしょう。
粉彩扒花の世界を、実際に手に取って

全3回にわたってご紹介してきた粉彩扒花の世界。いかがでしたでしょうか。
WELLBEING TOKYOのショールーム(予約制)では、実際に作品を手に取ってご覧いただけます。写真では伝えきれない、文様が光を含んでふわりと浮かび上がる様子や、手に触れたときの温かさ、静かに深まる色の重なりなど、作品本来の魅力は、実物だからこそ感じていただけます。
また、展示会情報などはInstagramでも随時お知らせします。是非フォローしてくださいね。
WELLBEING TOKYOのお茶会について

WELLBEING TOKYOでは、定期的にご購入いただいているお客様や、InstagramのDMなどから会員登録をしてくださった方を対象に、隔月でお茶会を開催しています。
開催期間は隔月でおよそ4日間。季節ごとにおすすめの中国茶を3種類前後ご用意し、実際に景徳鎮の茶器を用いて味わっていただきます。
当日は、中国茶の基本的な淹れ方や道具の使い方に加え、香りを「聞く」楽しみ方についてもご紹介しています。
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ライター:Mayo Ishii
テーブルコーディネートディプロマ取得。アフリカ、ヨーロッパ、東南アジアに滞在。世界中の手工芸品や文化をテーブルに取り入れることが好き。現在インド・チェンナイ在住。