[第1回] 粉彩扒花とは何か〜粉彩と扒花、二つの古法が生む景徳鎮磁器の美〜

本コラムは、景徳鎮に受け継がれる伝統装飾技法「粉彩扒花」の器ついて、全3回でご紹介するシリーズです。
第1回では、世界でも限られた職人だけが手がける粉彩扒花(ふんさい はっか)という技法そのものに触れていきます。粉彩(彩釉)と扒花(圧道)という二つの古法を重ね、釉薬の層に針を走らせ、さらにその上からやわらかな絵付けを施す工程は、光を含むような繊細な表情を生み出します。東洋と西洋の美が静かに溶け合うその佇まいは、現代のシノワズリを提唱するWELLBEING TOKYOの世界観そのもの。まずは、粉彩扒花が持つ奥深い魅力からご紹介します。
粉彩 ― 宮廷文化が育んだやわらかな色彩美

粉彩扒花とは、中国磁器の歴史の中でも特に格調高い装飾技法として知られています。粉彩は、中国磁器の「四大伝統名磁器(青花、玲珑(玲瓏)、粉彩、颜色釉(色釉・色釉瓷))」のひとつに数えられ、清王朝の宮廷文化のもとで完成度を高めてきました。器の表面には、玻璃白料(はりはくりょう)と呼ばれるガラス質の白が施され、その上に天然の鉱石を細かく砕いて調合した上絵具で絵付けが行われます。輪郭線を用いず、色の濃淡とにじみだけで形を表す「没骨法」によって描かれる花や山水は、淡く、やわらかく、静かに存在感を放ちます。ヨーロッパで“Famille Rose(ファミーユ・ローズ)”と呼ばれ愛されてきた、優美なパステル調の色彩も、この粉彩から生まれました。
扒花(圧道) ― 針で刻む“花摘み”の美

一方の扒花(はっか/圧道)は、粉彩の彩色とはまったく異なるアプローチで美を生み出す技法です。釉薬を均一に施した器の表面に、錆びない極細の針を走らせ、植物文様や連続文様を一線一線刻み込んでいきます。彫り進めることで下から白胎が浮かび上がり、光を受けたとき、文様がふわりと立ち上がるような陰影が生まれます。この工程は、まるで花を一輪ずつ摘み取るかのような所作であることから「花摘み」とも呼ばれ、極度の集中力と正確さを要する高度な手仕事です。
粉彩と扒花が重なるとき、「錦上添花」の世界へ

粉彩扒花の本当の美しさは、この二つの技法を重ねることで初めて現れます。すでに美しい粉彩の世界に、さらに針彫りという繊細なレイヤーを重ねる。中国ではこの装飾を「錦上添花(きんじょうてんか)」、すなわち「美しいものに、さらに美を添える」と表現してきました。成形から施釉、圧道、手描き、そして複数回の焼成まで、完成には20を超える工程が必要とされます。光の角度によって表情を変え、使うたびに新たな美しさを見せてくれる粉彩扒花の器は、単なる道具を超え、暮らしの時間そのものを静かに豊かにしてくれる存在なのです。
西洋と東洋が溶け合う「シノワズリーの結晶」

また、扒花は清王朝・乾隆期にヨーロッパからもたらされたエナメル技術や薔薇文様の影響を受け、粉彩とともに発展したといわれています。20世紀には一時大きく衰退し、伝承が途絶えかけましたが、近年になって技法が再興され、文化的価値の高い工芸として再び注目を集めています。
東洋の白磁と針彫りの繊細さに、西洋の写実的な花の意匠が重なり合うことで生まれた、まさに「シノワズリーの結晶」といえる作品であり、WELLBEING TOKYO の世界観とも響きあう美しさを宿しています。
WELLBEING TOKYOが惹かれた、粉彩扒花の魅力

WELLBEING TOKYO の代表・谷家さんが、初めて粉彩扒花の器に触れたとき、最も心を奪われたのは「天然鉱石が生み出す、高揚するようなパステルの色」だったといいます。淡いグリーンやブルーといった色調は、天然鉱石では再現が難しいもの。しかし、景徳鎮の薄胎磁器と粉彩の技法によって生まれるその色は、どこまでも澄み、静かな品格を湛えていました。さらに惹かれたのは、光に透かしたときにふわりと浮かび上がる、扒花による精緻なエッチング。ごく小さな器のわずかな面積に、針で刻まれた極細の線が途方もない密度で重なり、そこに花鳥の絵付けが寄り添う様子を見て、「まるで小さな宝石のような芸術品だと感じた」と谷家さんは語ります。
次回予告|粉彩扒花を継ぐ名匠・張文月という存在

粉彩扒花という技法を知るほどに、その美が偶然ではなく、長い時間と人の手によって育まれてきたことが見えてきます。
では、この希少な技法を今、誰がどのように受け継いでいるのか。
第2回は、粉彩扒花の名匠・張文月氏をはじめ、作品に見られる表現の違いや“グレード”についてご紹介します。
実物でこそ伝わる、粉彩扒花の美しさをショールームで

WELLBEING TOKYOのショールーム(予約制)では作品を実際に手に取ってご覧いただけます。
写真では伝えきれない、紋様が光を含んでふわりと浮かび上がる様子や、手に触れたときの温かさ、そして静かに深まる色の重なりなど、作品本来の魅力は、実際に手に取ってこそ感じていただけたら嬉しいです。ぜひギャラリーにて、ひとつひとつの表情をご体感ください。
また、展示会情報などはインスタグラムでもお知らせする予定です。是非フォローして下さいね。

WELLBEING TOKYO ショールーム
【時間】11:00~17:00 完全予約制
【場所】東京都港区六本木
▼各日定員制
A.11:00~12:30
B.12:30~14:00
C.14:00~15:30
D.15:30~17:00
ウェルビーイングTOKYO
TEL:03-5561-6018
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ライター:Mayo Ishii
テーブルコーディネートディプロマ取得。アフリカ、ヨーロッパ、東南アジアに滞在。世界中の手工芸品や文化をテーブルに取り入れることが好き。現在インド・チェンナイ在住。