景徳鎮と共鳴しあう日本の作品を求めて

2024年5月、六本木のギャラリー「Courage de Vivre」で開催された展示会《時を結ぶ、器の饗宴 -景徳鎮 Jingdezhen × 漆芸 Japan-》は、中国と日本、ふたつの伝統工芸が静かに、そして力強く響き合う貴重な場となりました。企画・主催を務めたのは、Wellbeing Tokyo代表の谷家理香さん。展示会の背景には、彼女の熱意、現地での出会い、そして数々のご縁がありました。
輪島支援で繋がった素敵なご縁

谷家さんは経済産業省を引退した友人がコンサル会社を立ち上げ輪島支援の調査を行うということで、そちらの関係者とともに今年3月に能登半島地震と大雨による甚大な被害を受けた輪島の「塗師」の方々の訪問調査に同行しました。輪島の「塗師」とは漆器の企画、デザイン、製造、販売を統括するプロデューサーのような存在です。
飛行場から町への道にはまだたくさんの崩れた家屋、手つかずの瓦礫が普通にありました。生活インフラはほぼ復活したとはいえまだまだ大変な現状に触れ、工芸の再開が困難な工房も多いことを目の当たりにします。
そんな中、出会ったのが、数ある塗師のなかでも、老舗の高州堂さんでした。Wedgewoodなどのラグジュアリーブランドとのコラボレーションも手がける先進的な取り組みをされている塗師さんです。谷家さんが「景徳鎮の作品とお互い響きあう日本の作品はないか」と探していた折にまさにありがたいご縁をいただきました。
名匠、人間国宝、巨匠。

展示会には、中国における「人間国宝」に相当する作家の方々の景徳鎮作品に加え、輪島が誇る名匠・小森邦衞氏と角偉三郎氏の作品が並びました。谷家さんはこの二人の作品に初めて触れたとき、その圧倒的な存在感に「この器たちならば、景徳鎮とがっつりと四つに組みお互いを引き立てあう」と確信したと語ります。
大変な状況にありながらも、「こんな時だからこそ、面白いことをやりたい!貴重な作品なので販売はできないけれどお貸出しなら」と前向きに展示会への協力を快諾してくれた高州堂の大向社長の懐の深さ。
作品を貸し出すということは実はとっても大変な作業です。作品自体はかなり大きさもあるので丁寧に梱包して箱詰めして送るなどの事務作業や、ましてや販売利益にならない中、傷がついてしまうリスクもあります。私が「作品には傷がつかないように万全の配慮で扱わせていただきお手元にお戻しします」というと「大事に扱っていただくというより、
◇「小森邦衞 氏」

小森邦衞氏は、2006年に重要無形文化財「髹漆(きゅうしつ)」保持者として人間国宝に認定されています。その代表作の一つで、今回お貸出しいただいた「草花絵替沈黒盆」は、鏡のように磨かれた漆面に鋭い鑿痕を刻む圧倒的な存在感を放ち、来場者の心を静かに揺さぶりました。美しく磨き上げられた完成品に「使えば傷がつくもの。だからこそ、最初から“意図された傷”を入れたい」という小森氏の言葉には、器と使い手への深い覚悟と愛情が込められています。こちらは展示会のわずか数週間前に出来上がった作品。
あまりに美しさに思わず谷家さん自身が欲しい!とおもってしまい「販売はどうしてもだめですよね?」とダメ元で大向社長にきいてみると、まだ出来上がったところで売れてしまうとたくさんの方に見てもらえないから・・と。確かにこれは大勢の方に見てもらいたい。
◇「角偉三郎 氏」

角偉三郎氏(1940–2005)は沈金と漆の融合による独創的作品を発表し続け、その存在感で多くの支持を集める巨匠。今回特別にお貸し出し頂いた角偉三郎氏の作品と一目でわかる「片口」と「合鹿椀」は圧倒的な存在感と迫力を放ちます。手触りに温もりを感じさせるデザインで、景徳鎮の作品と並べることでお互いの格がピタリと揃い、魂が響き合う対話が生まれ、空間全体に深い調和と緊張感が生まれました。
そしてさらに贅沢なことに、このテーブルで中国茶会をしているときに皆様がやはりこの圧倒的な重力に引き付けられるように「こちらの作品は?」と聞かれます。そっと手に取っていただくとそのずっしりとしたまさに漆の塊といった風情に圧倒され溜息が漏れます。これが作品の持つ力。またもや谷家さんが「欲しい!」となるのですが「こちらは売れないんです」と大向社長。ですよね。因みに角さんの赤の片口と合わせた上の写真の毛先生の赤の茶碗も「非売品」とさせていただきました。これは毛先生自身からこちらの出来栄えは素晴らしいからもっておいて、と言われた作品で何人ものお客様からこちらは販売していないのですか?と言われたのですが「こちらは販売していないのです」と。今回実は景徳鎮の器も何品も非売品があったそうです。
…(展示の裏話)

今回の展示実現には、ギャラリー「Courage de Vivre」との丁寧な対話が欠かせませんでした。輪島塗の作品が今回展示のみだったことはギャラリーとしては異例のこと。作品の魅力がしっかりと伝わり、適切にお客様に届けるというギャラリーとしての役割、すなわち販売するという側面も大切にされていました。しかし、谷家さんの真摯な想い、高州堂・大向社長の誠実な姿勢、そして何よりも作品が届き、手に取った時に放つ圧倒的な存在感が、「これは成立する」と感じさせる決定的な後押しとなったのです。
最終的には、ギャラリー側から「この組み合あわせで大正解」との言葉も寄せられ、展示は大きな成功を収めました。
最後に皆さまへ。

この度ご協力ただいた輪島の皆さま、なかでも高州堂の皆さま、そして景徳鎮の皆さま、ギャラリー「Courage de Vivre」の皆さま、それらをつなげた谷家さんのまっすぐな情熱、そしてこの他にも頂いた数々の出会いや多くのご縁に、心から感謝を申し上げます。
復興の途上にありながらも、前を向き、手を動かし、魂を込めて作られた器たち。そこに、まだあまり知られていない景徳鎮の“いま”を伝える、美しく力強い作品が出会い、新たなシノワズリをご提案できたことを、大変嬉しく思います。
そして何より、ご来場くださった皆さま。響き合う美と魂をともに感じ、その喜びを分かち合ってくださったことに、心より深く感謝いたします。